その壱はコチラ。
つづき。
私は駅前で缶コーヒーを飲み、一息ついてから歩を進めた…。
西口駅前のロータリーを三菱東京UFJ銀行を右手に見ながら道なりに歩く。すると、西口遊楽街のメインストリートに辿りつく。
とある情報筋によると、噂のお店は三菱東京UFJ銀行の裏手、線路沿いのどこかにあるらしい。店名は『花』そして『アンデルセン』『ヌーディー』だそうだ。
私はこの情報を耳にしたとき、やはり半信半疑。どうにも信用できなかった。当然だ。だいたいこの手の話のほとんんどがガセ情報なのだから。
ただ、NK流が壊滅して3年ほど経つだろうか…。もうそろそろ地下に潜った怪しくも訝しげなお店の噂が出てきたとしても、決して可笑しくない。しかも、噂には珍しことに店名まで明らかに?なっている。本音を言うと、半信半疑と言いながらも、実は心のどこかで結構期待していた。
メインストリートに着いた。
……
人ひとり歩いていない。通路脇に並ぶビルは、明らかに空きテナントばかり。予想していたとはいえ、全盛期の姿からは考えられないほど、街は廃れ寂れていた。
気付けば空からは完全に夕日がなくなり、周囲は真っ暗に…。それも影響してなのか、街はとても寂しげにみえた。
私は誰もいない通りを、ひとり真っ直ぐ歩く。無料案内所が見えた。まだ営業していることに驚いた。
目的地は三菱UFJの裏手あたり。しかし、私はそこには向かわず、真っ直ぐ歩き、角を左に曲がり、かつてNK流が存在した街の端まで歩いた。そして、そこから来た道とは異なる通りに入り、駅前を目指して街をぐるっと歩いた。
まるで昔を思い出すようにゆっくり、そして何かを探すように、周囲に目を配りながら歩いた。
駅前に戻ってきた。
この往復ですれ違った人は数人で、その内訳は、イメクラで働いているであろう嬢とその客(手にセーラー服を持っていた)、恐らく近隣住民、そして、中華料理のデリバリースタッフだ。
一見して客引きと分かる人物、もしくは客引きであろうと思われる人物との遭遇・接触は、まだなかった。
まだ一往復。しかも、肝心のエリアに足を踏み入れていない。街の荒廃、復興の進み具合は残念ながら想像以上。そして、人通りの少なさも予想以上であるが、確実に客引きはいる。いるはずだッ!
そう信じ、私は2往復目に入った。
恐らく私が向こうを発見できていないだけで、向こうからは私が見えているはずだ。仮に客引きが存在していると仮定すれば、何かを探すように歩き回る私をみて、次こそは声を掛けてくるはずだ…
そう思い、再び街に入った。相変わらず人通りは少ない。これでは同じルートを通っても結果は見えている。そこで、今回は噂の方向へ進んだ。三菱UFJ銀行の裏手に出て、道なりに左に曲がる。
線路沿いに出た。
スグ左には過去何件もの風俗店が入っていたビルがある。しかし、それらしき店はないし、テナントが入っている雰囲気も感じない。無人。廃墟ビルだ。
目的地に入り、いきなりなぜこのビルに着目したかというと、私は噂を聞いたとき、瞬時にこのビルの存在が浮かんだ。銀行裏手の線路沿い。恐らく風俗があるとしたら、このビルだろうと予測を立てた。しかし、どうやら違ったようだ。
私は視線を線路に平行して真っ直ぐ並ぶ正面通りに送った。
40,50㍍先に見えるラブホの灯り。そして、いくつかの街灯。それ以外、何も見えなかった。街から人が消えたのか?そう思えるほど誰もいなかった。
私はまた歩く。真っ直ぐ。いつ声を掛けられてもいいようにゆっくりと歩いた。しかし、声は掛からないし、掛けられない。というよりも寧ろ、誰にも会わない。更に言うならば、風俗が存在する気配が全くしない。
ラブホテルを超えて更に先に歩く。しかし、誰もいない。来た道を戻る。当然誰にも会わないし、当然声も掛からない。
日が落ちたとはいえ、まだ残暑。かなり汗をかいた。喉もカラカラだ。体力と時間を浪費しているわりには、全く成果のないこの現状に、少しイライラしてきた。このイライラの中には、(もしかしたら…)と期待していたということも少なからず影響していた。
三度駅前に戻ってきた。次は缶コーヒーではなくスポーツ飲料を口にした。
少し冷静になり思ったことは、やはりガセネタだったのか…という落胆と、変わり果てた西川口の姿に対する絶望。
よく締め付けすぎると地下に潜ると言うが、この西川口の姿をみるに、地下にも潜れないのでは…と思ってしまう。それは、当局の監視の目が厳しいというよりも、地下に潜ったところで、集客が期待できない。営業していけないのでは…という根本的な原因からだ。
祝日の夕方とはいえ、あまりにも少ない人通り。街中のビルも空きテナントばかりで、これでは隠れて営業していても目立つ。それゆえ客引きがいないのも当然といえるだろう。
私はスポーツ飲料を飲み干すと、最後の力を振り絞り、再度、西川口の街を歩いた。もうほとんど諦めている。諦めてはいるが、確信を持つため、後悔を残さぬため、最後にもう一度だけ歩いた。
……
……
……
それから約30分後、私は大宮にいた。
つづく。
To Be Continued.