その壱はこちら。
その弐はこちら。
その参はこちら。
その四はこちら。
その五はこちら。
その六はこちら。
その七はこちら。
つづき。
「もういいから。ボッタクリだと確信した。今更遅い。警察に行くから…」
と嬢に言い放ち、その勢いのままブースを飛び出した。
私の剣幕と警察という言葉を聞いて、彼女は慌てふためく。
「まっ待って…」
後方で微かに言葉が聞こえた。しかし、当然止まらない。だが、このまますんなりと外に出れるほど甘くもない。入口ドアには私をこの魔窟へ招きいれた例の黒コート男が待ち構えていた。
「どうかしましたか?まだお時間が残ってますよ」
手馴れているのだろう。男は私の様子を気にすることなく冷静に尋ねてきた。
「どうかしましたかじゃないでしょ。話が全然違うじゃないですか!」
私は怒気を含めて返答する。そして続けて…
「5000円だけと言いましたよね。入店前に何度も5000円だけで大丈夫か…と確認しましたよね。それが何ですか?追加料金って。しかも、ろくにサービスもしないし…」
と問い詰めるが、ここでも黒コートの男は微塵もたじろぐ様子なく…
「いや5000円ですよ。5000円でサービスはありますよ。抜きもありますし。どこが話しが違うんですか?」
と全く悪びれた様子がない。まるでブース内で行われていることは一切知りません。私は関知していませんという口ぶりだ。
いくら私が小心者とはいえ、この態度には本気で腹が立った。
「はぁ!?よくそんなことが言えますね。あれがサービス?あれで抜きがある?てゆーか全部知ってるんでしょ。追加料金を払ったことも」
そして続けざまに…
「これボッタクリですよね?どう考えてもボッタクリですよね?」
とここで遂に今回の核心に触れる。するとここで始めて男の顔色が変わった。
「ボッタクリとはどういうことですか?何をもってボッタクリと言ってるんですか?抜きならあるじゃないですか。それに私は5000円で大丈夫と言っただけで、事前にいったでしょ。(追加で)道具とかも使えるって…」
と、当然ボッタクリであることは認めない。どころか、今までと同じで、「言った」「言わない」の話に持ち込もうとする。
確かに男は「5000円で大丈夫」と言ったが「5000円で生フェラがある」「お触りができる」などとは具体的に明言していない。更に追加料金があることも「(追加で)道具が使えたり…(小声)」と暗に示唆していただけだ…。
とはいえ、言葉では明言していなくとも入店前のやり取り、そして支払い後、入店前に「ヘルス?」と尋ねた際に「サロンです」と返答したことを考えても、5000円支払えばそれなりのサービス(最低でも手コキ)はあると思うのが普通だろう。
それを明言していない。言質をとっていない。約束していないからといって「ボッタクリではない!」と否定することはできないはずだ。なぜなら言葉上の明示の承諾はなくとも、暗に合意を意味する黙示の了解は確かにあったのだから…。
事実、私は現場で追加料金を支払い、計10000円を支払っている。それにもかかわらず、抜きはなかった。
店側の言い分はこうだろう。約束通り手と口でサービスしているのに逝かなかったのはそちらの問題!そもそもプレイ時間もまだ残っているのに、サービスを途中で投げ出した!
まあこんなところだろう。
確かに言われてみれば、私はサービスを途中で投げ出した。だがそれは、永遠と続く中途半端なサービスでは逝けず、それを伝えたら更に追加料金を求められたからだ。決してわざと逝かない努力をしたわけでもなく、追加料金を断ったわけでもない。
更に言うなら、私が怒り、警察へ行くと伝え、席を離れようとしたら、嬢は今回だけ特別に…と言ってゴムを取り出し、ここえきて本気で抜こう、射精へと導こうとした…。
これだけの状況証拠があるにもかかわらず、平然と「ボッタクリって何ですか?」と白を切り続ける不遜な態度。
もはや我慢ならん!
事前にボッタクリ店であることが分かっており、自ら望んで死地に臨み、敢えて追加料金を支払い、事前のシナリオ通りほぼ完璧にボッタクられた。そして、ボッタクリであることを伝え、予想通りの返答を貰い…今に至る。
ここまでの行動、行為、態度、返答、全てが予想通り。とはいえ、ここまで堂々とボッタクリを否定されては、本当に頭にくる。
私は問い詰める。
「追加で道具が使えるとか、5万払ったら色々なサービスがあるとか、そんなの関係ないですから。私が聞いた話と全然違うことは貴方も分かっているでしょう。店の中で追加料金を払ったのも知ってるでしょう。そもそもこの店がボッタクリなのは自分が一番分かっているでしょう。もしかして自覚ないの?だとしたらかなりの馬鹿でよ」
と言いつつ男を押しのけ強引に入口を出る…が、さすがに馬鹿と言われて頭に来たのか。男は…
「何がボッタクリなんですか!どこがボッタクリなんだ。サービスはきっちりしているじゃないか。それをボッタクリとはどういうことだ」
と声を荒げ、続けて…
「分かりましたよ。そこまで言うなら店に戻ってください。今からでもサービスしますから!!」
と半ば強引に私を店内に引き戻そうとする。別に手足を押さえられているわけではない。ただの売り言葉に買い言葉…というだけでもないのだが、とりあえず私を店内に引き戻そうとする。
がしかし、当然戻らない。当たり前のことだが、なぜそんな危険な場所に再び戻るというのか。そもそも今更サービスをするとはちゃんちゃら可笑しい話。もう既に10000円を支払い済みなのだ。それをボッタクリと言われたから、売り言葉に買い言葉。改めてサービスするというのは全くもって可笑しい話。
恐らく店内に戻っても“何されるわけ”ではないだろう。暴力を振るわれることはまずないし、監禁される心配もないだろう。では逆に実際にサービスしてくれるか?となると、手コキかゴムフェラか分からないが、恐らく次はきっちりサービスしてくれるだろう。
なぜそう思うか?
その秘密は嬢が最後に取った行動にある。急ぎゴムを取り出し今回だけと特別にサービス、つまり強制的に射精を導こうとしたこの行動に秘密がある。
簡潔に言うならば、何だかんだで最後は射精させてしまえば、それまでいくら追加料金を支払おうが、いくら文句を言おうが、いくら怒りに震えようが、結局のところ「射精したんだから…」と店側としては大義名分が立つ。
射精したという事実。この事実で、最低限サービスをしたというアピールにもなるし、客も泣き寝入りせざるをえない。また一応射精したので怒りや憤りが少しは緩和されるという狙いもあるだろう。
とどのつまり、額面に関わらず最終的には射精させる。この事実によって「当店はボッタクリではない!」との最終的な防御策をとっているということだ。
その証拠に私は射精していない。その上で「警察に行く!」と息巻いている。
当然のことながら警察に行かれるのは危険。この手のボッタクリ店にとって必ず避けねばならない現象だ。しかも今回は射精した事実がない。つまり店側からすると、警察に行かれてしまうと、対抗手段が何もないということになる。それゆえ、私を店内に引き戻し最後までサービスを受けさせよう、射精させようとするのだ。
しかし、私は戻らない。当たり前だ。カラクリを知っている上に、それ以上に今更抜きたい気持ちはない。
「早く店内に…」
と私を呼び戻す黒コートの男に向かって…
「今更もういい。もう遅い。警察に行くッ!」
と早口で捲くし立て、その勢いで階段を駆け下りた。男はそれを聞いて…
「ちょっ!ちょっと待って。とりあえず話ましょう…」
と後を追いかけてくるが、私は振り向きもせず一目散に駆け下りる。階段を降りきりビルの玄関を出た時、男はまだ2階。私はそのままの勢いで左手-駅方面-に向かう。
その時『エンジェルシェイク』の看板の前には坊主頭の若い兄ちゃんが立っていた。
ビルから駆け下りてきた私を見て、なぜか軽く会釈する。いったい何を意味する会釈なのか?その真意は分からなかったが、この坊主兄ちゃんを横目にみつつ…
(この坊主兄ちゃんじゃなくて良かった…)
と安堵しながら駅前の信号を左に曲がり、(行く気はさらさらなかったが)駅前の交番を目指すふりをした。
時刻はまだ18時前。新橋は帰宅ラッシュの真っ最中。私は駅に向かう雑踏に紛れ込み、男から姿を隠す。そして、数十メートル進んだところで、そろり後ろを振り返る。
信号前で黒コートの男が私の行く先を心配そうに確認していた。私はそれを確認して、更に歩を進めSL広場の雑踏に消えていった。
-了-
-編集後記-
皆さま長らくのお付き合い、本当にお疲れさまでした。当初の予想を大きく上回る全八話。少し中だるみした感もあり、そして最後は特にオチもなく…本当に申し訳ありません。
特に最後に関しては警察に行くものなんだろう…と思った方も多いと思います。いや寧ろ警察に行くことを期待した方が多いでしょうか…。話の中で何度も「警察に行くから」と伝えてはいましたが、実のところ計画当初より警察に行く気はありませんでした。
理由としては、そこまで話を大きくしても…というのがひとつ。仮に警察に行ってもどうにもならないというのがひとつ。
ですが、本音を言えば、警察に行くふりをして、店員が後を付けてくるのを待ち、声を掛けられ返金をして貰えたら…というのが本当の狙いでした。がしかし、男は信号でこちらを見失ったのか?それとも私が警察に行く気がないことを察したのか?
その辺は分かりませんが、後をつけてくることはありませんでした。
結果オチのない最後になりましたが、全八話の中でボッタクリ店の手口は全て解明できたと思います。ただ実際はもう少し段階を経て追加料金をとられていき、その都度コントのようなサービスが繰り広げられるはずです。
とはいえ、手口は同じ。○○ができる。○○がある。ということを匂わせておいて、結局やらない。だけれども、次こそは…できる!と再度、餌を撒いてそれを食べさせる。後はこの繰り返し。
昔に比べてこの手のボッタクリ店は少なくなりました。ただ少なくなったとはいえ、未だ存在するのも事実。しかも、これだけの情報化社会の中にあって未だ被害に遭う方が後を絶ちません。
一番の薬はこの手のボッタクリ店が無くなることですが、それは恐らく難しいでしょう。オレオレ詐欺と同じように、いつの時代になってもボッタクリというものは手口を変え、どの時代にも存在するでしょう。であれば、一番の薬は我々利用者が常に注意すること。
とりあえず初めて利用するお店であれば、店名をグーグル検索にでもかけて、何か変わった情報はないかと調べてみるといいでしょう。恐らくというか、間違いなくというか、そのお店がボッタクリ店であれば、絶対に被害報告が検索されるでしょうから。
とはいえ、一番の対策は基本的なことです。「上手い話に乗らないこと」これがボッタクリ対策の一番の武器と言えるでしょう。
本当に長らくのお付き合い有難うございました。これにて新橋ピンサロ『エンジェルシェイク』のボッタクリ記事を終えますが、当然ながらボッタクリが無くなったという訳ではありませんので、同士諸兄はじめ読者の皆さま、「君子危うきに近寄らず」です。
くれぐれも被害に遭わぬようご注意くださいませ。
最後に今回情報を下さった同士、そして被害に遭われた全て方へ、御礼のお言葉を述べ-了-とさえていただきます。
ご心配、ご注意、後方支援。色々と有難うございました。皆さまのお力添えのお陰で今回の危険なミッションを成し遂げることできました。本当に有難うございました。
それでは今日はこの辺で…。