阿倍野駅から桃色天国駅へ。
16歳の春、僕はおんなを知った。
それはあまりにも突然のことで、朝起きたときには、そういうことが待っているなんて、まったく思っていなかった。
降って湧いた僥倖、いや偶然の産物といっていいだろう。
ただ、不思議なことに初体験の記憶はおぼろげだ。そこへ至る過程はとても鮮明に覚えているのに、行為自体は不鮮明で、だけどもいまなお残像が夢にでてくる、、そんな初体験だった。
今日は少し想い出を語りたい。
春休みの何もない日常
わたしがおんなを知ったのは、高校一年生の春。早生まれのため、まだ16歳であった。
オナニーとアルバイトに明け暮れた高校生活、春休みの何の予定もない暇な一日。いつもであれば兄の部屋からエロ本を物色し、オナニーをして、飯を食って雑用を済ませ、またオナニーをして過ごす、、、
どこにでもある高校生の一日だったろう。
そうあいつが家に来るまでは…
運命の歯車はこの一言から始まった
昼過ぎだったろうか、友人のタクローが突然家に来た。そしてこう言った。
「パチンコ行こうぜ!」
急にどうしたのかと思ったら、共通の友人であるマサヤンが先日パチンコで大勝ちしたらしい。
3000円が50000円以上にもなったと聞いて、タクローは居ても立ってもおれず、俺もとなったらしい。悔しいやら羨ましいやら、あいつはケチだ(何もおごってもらえなかったようだ)と連呼していた。
このとき、わたしもタクローもパチンコの経験はない。それもそうだ、まだ16歳、高校一年なのだから。しかし、地元の友人たちの多くはすでにパチンコデビューをしている。
悪いことに憧れる少年時代。地元のワルたちは、原付をニケツし、タバコを吹かして、堂々とパチンコ屋に出入りしていた。
タクローの言葉からは、マサヤンが羨ましい以上に、ブーム乗り遅れたくないという真意が見え透いていた。いや、それよりももっと大きな理由があるのをわたしは見逃していなかった。
「別にええけど、金は自分持ちやで」
そう、タクローは文無しだったのだ。そこで、パチンコデビューという餌を撒き餌にアルバイトをしていて小遣いに余裕のあるわたしを巻きこもうとしていたのだ。
金の無心を兼ねて。ギャンブル依存症によくある、「勝って返す!」というあの言葉をもって。
結局のところ、なんだかんだでするこのなかったわたしは、タクローの絵図どおりパチンコへ行った。
するとどうだろう、、、なんとビギナーズラックが爆発。
わたしは4万勝、タクローはなんと10万をも超える換金を成し得た。しかも投資金はふたり合わせても1万にも届いていない。。
パチンコデビューは、2人合わせて純利益13万を超える大勝利の上に終わった。
大勝利と友情
驚くような大金を手にした高校生ふたり。初めて手にする10万近い諭吉様を地元ヤンキーからのかつあげを防ぐため靴下の中に震える手で避難。財布のなかには1、2万だけを残した。
その後は、、豪遊だ。
といっても高校生のすること、焼肉を食べ、ゲーセンに行き、友人にカラオケを奢って、、宵の闇。
タクローと家路につき、靴下の中から諭吉様を救出する。あれだけ豪遊してもまだ8万円近く残っていた。
この日、利益が出たら折半だと決めていた。勝とうが負けようが出玉は折半、後腐れなし。金を貸す前に念押しして約束していた。
よもやの大勝にタクローは不満げだったが、軍資金はわたしの金だ。それにもしかしたら逆のパターンもあった。
最終的にタクローは納得して折半に応じた…と思っていた。
あの言葉を聞くまでは。
そうだ風俗へ行こう!
「ックショー、これじゃ丸損やんけ。ほとんど俺のお陰なのに。」
「仕方ないやん、元は俺の金やねんから。それに約束したやろ始めに、お前もバイトせーや」
「せやなー、せやなー、もうあぁーーあ”あ””””、、 なぁバカイチ、、あのなぁ、…… ..……」
「??なんやねん、早く言えや!!」
「…っぞく行こうぜ!」
「ん?なに?なんて??」
「だからー残った金で、ふーぞく行かへん!?」
「フ、ふ、フーゾク??」
「そう風俗、ヘルス」
「あぁフーゾクか、、、へっ???風俗、、えっヘルス??もしかしてあそこ??」
「そうそう、あそこ、リッチマン、、、リッチドール行こうぜ!」
「まじか、キクチ先輩御用達のリッチマンか!!」
「いまならまだ間に合うし、チャリを飛ばせば15分も掛からへん、行こうやバカイチ!」
「お、、おぉおう、おうよ!!そうや行こう風俗、金ならある。行こう!リッチドールへ行こう!」
声をそろえて、、、
「風俗へ行こう!」
ということで、昼間叫んだ掛け声、「パチンコへ行こう!」が、その日の夜には「風俗へ行こう!」とへと変化していったんだ。
いま冷静に考えると、なんてバカだったんだろうと思う。完全にギャンブル依存症の考えと行動だ。
ここから数年後、わたしはギャンブルと風俗で数百万円の借金をつくるのだが、おそらくこの時の体験が、その原因であることは間違いないだろう。
ついでに余談をもうひとつ。
ビギナーズラックが爆発したパチンコ屋だが、ここも数年後、遠隔操作が判明し数ヶ月の営業停止に追い込まれている。
そして僕たちは駆けだした…
こうして、パチンコデビューは先を越されたが、風俗デビューは友人たちに先駆けて経験することになった。
わたしたちは、ほぼ立ち漕ぎのまま全速力で大阪は天王寺にある「リッチドール阿倍野店」へと急いだ。
このときの高揚感はいまもって忘れない。まじりっけひとつない心からの純粋。裸がみたいとか、舐めたいとか、舐められたいとか、そんなことじゃない。
これから何が起こるのかも分からずに、ただ闇雲に「風俗店」という天国へと向かっていた。女を知るという目的よりも、初めて風俗店へ行くという目の前の現実に陶酔していたんだと、いまそう思える。
『リッチドール』へは予想よりも早く着いた。
店の手前でチャリを止め、いざ階段を上るときには、さすがに躊躇した。しかし、タクローと目を会わせ、互いの意思を確認したら自然と階段へ足がのびた。
一段一段 踏みしめるように、一歩一歩 大人の階段を上るように…
つづく。
to be continued
※不定期連載です。次回まで今しばらくお待ちください。