その壱はこちら。
つづき。
私は狙いを定めつつも、まるで誘われるかのように男の方へと歩み寄る。看板の前を過ぎ、男の前を過ぎるその刹那、何かが私の手に渡された…。
ポケットティシュ?否、チケット?
手渡されたものは映画の半券のようなチラシで、俗にいう割引チケットだった。黄色を基調にアイドルの顔写真がプリントされ、中央には公式OHPにある『エンジェルシェイク』のロゴと5000円ポッキリの文字。
私はこの割引チケットを手渡されるよう意図的に近づき、しかしいざ手渡される時にはその意図を隠し、正面を見据えたままそ知らぬ顔で受け取った。
そして、そのまま立ち止まらずにゆっくりと歩を進めながら、そのチケットに目を遣る。そして、記載された内容を確認し、そのチケットが手渡された方向-正確には右後ろ斜め-を振り返った。
……
男と目が合う。が、私はスグに視線を外し歩を先に進める(ふりをした)。すると男は私に何か声を掛けつつ並走し、手を私の前に差し出し、私の歩みを止めようとする。
「抜きはありませんか?可愛い子いっぱいます。抜き抜き。サービス満点。ちょっ止まって…」
確かこんなことを言っていた。しかも声がそれなりに大きい。帰宅時間で混雑する新橋駅前。帰路を急ぐサラリーマンでごった返す中、このようなことを声高に叫ばれても…
と思いつつも、私は当初の目論見どおり、男の興味を引いたことを確認して、その場に立ち止まった。
『エンジェルシェイク』の看板からおよそ2メートル程度だろうか。その場で男の言葉に興味を持ったかのように立ち止まり…
「これ何ですか?」
と何も知らないふりで男に尋ねた。
男は(釣れたッ!)と思ったのだろう。早口で興奮気味に…
「抜きです。お姉ちゃん。スグ其処。サービス満点ですから遊んでいきませんか?さぁさぁ…」
とまくしたて、私を暗黒の魔界へ誘おうと『エンジェルシェイク』が入るビル入口に向かって手を差し向けた。
私は(まだ乗るには早いかな…)とタイミングを伺う。ここで簡単に乗ってしまい、変に疑われては元も子もない。
今回のミッションは、皆様もご存知の通り少々特殊で、疑われることなく客引きに引っかかり、その勢いのまま潜入し、無事ぼったくられることにある。そのためにはまず客引き、つまりはこの黒コートの男に疑われることなく、気持ちよく引っかからなければならない。
そもそも「お詫びとして自ら(ボッタクリ)体験に行く!」と宣言しているのだ。コトが発端してから今日まで多少月日は経ったが、さすがに店側も警戒しているはず。
ほいほいと簡単に引っかかる男や、質問攻めであまりにも警戒心剥き出しの男などは、店側も怪しむだろう。
ここで肝心なのは、疑いながらも疑われない事。興味を示しながらも簡単に乗らないこと。要は好奇心と警戒心。この二つを上手く見せつつ、相手に疑われずに店内まで歩を進めること。これが最も大事なことで、私はその一点だけに集中していた。
そこで私は差し伸べられた先に向かいつつも…
「いくらですか?ここに5000円って書いてるけど、本当に5000円だけでいいの?ぶっちゃけお金ないよ。てゆーか女の子は若いの?」
と警戒心と好奇心を見せ話を先に進めた。
そうこう話す間に私の身体は怪しげなビルの真下。周囲を見渡すと、ふととあるリーマンと目が合った。
「あぁ~あ。そこは駄目だよ」と訴えかけるような眼差し…。
もはや誰の目にもカモがネギをしょって歩き、そして見事に噛み付かれた。そう思えただろう。私の作戦はここまでほぼ完璧に、自分でも恐ろしいと思えるほどスムーズに進んでいた。
男はビルの中に入り階段を上る。そして、階段を上りながら…
「5000円ですよ。色々と道具とか使えるんですが(ここは超早口)5000円で抜くことはできますから…。女の子も20代!」と相変わらず早口にまくしたてた。
私はそれを聞きいて安堵しつつも…
「そう良かった。でも安いね。本当に5000円でいいんだよね。それ以上払わないからねw。正月お金使いすぎてピンチだから。ホントに5000円以上は掛からないよね?」
としつこいぐらいに念を押した。正直、少々怪しいかとも思ったが、私はこの後の事も考えて、ここで、この場で、入店する前に「5000円だけ」という言質をとって置きたかった。
というのも、いざ入店してしまえば逃げ場がない。逃げ場がないということは、万一違う金額を言われて、「言った」「言わない」の話になった時、その場を逃れるためにも、最低限その金額を支払う必要がある。それに、ここで言質をとっておく事で、この先の展開を分かり易い方向へ運ぶという狙いもある。
どちらかと言うと後者。今後の展開を考えての発言が色濃い。
男は更に階段を上る。そして答える。
「5000円です。大丈夫です。5000円で抜けますからッ!」
何度も同じことを聞くな…という口ぶりであったが、目論見通り確かに言質をとった。が、既にしてこの時、店側の作戦に私は嵌っており、この言質も「言わせた」のではなく「言った」。後から分かることだが、「ボッタクリ!」と罵られないために考えぬかれたマニュアル通りの言葉であった。
この意は話が進むにつれて明らかになる。今はこのまま話を先に進める。
その後、私達は談笑しつつ階段を上る。『エンジェルシェイク』は4階-最上階-にあった。3階を過ぎたあたりだろうか。私はそこで受け取ったチケットを返却した。
今考えれば全く怪しまれていなかったので、返却せず持ち帰り、ブログに掲載すればよかったと思うのだが、その時はとりあえず疑われぬように…との意識が強く、手に持っていたチケットを自然に返却していた。
長い階段を上り終え、ようやく到着。男が入口のドアの前で立ち止まり…
「では前金で5000円お願いします」
と入店前に支払いを求めてきた。
「えっここで?」
私は驚く。がこの驚きはフェイク。この入店前の支払いは、事前の情報にて知っていた。
私は男に見えるように財布を開き、そこから敢えて1万円札で支払い、お釣りを5000円貰った。
もちろん、事前に財布から身分証明書や重要なカード、そしてある程度の札は抜いていた。が、財布にまったくお金が入っていないことがバレると、ぼったくり行為を仕掛けてこないかもしれない。
ということで、1000円札を多めにまるで十数万円が入ってるように装い、その中にある唯一の1万円で、遭えてお釣りが出るように支払いをした。
5000円を受け取り、いざ案内ッ!
男が魔界への入口を開ける。ボッタクリとは言え一応風俗店のようだ。独特のソープ臭とローションの香りが鼻を刺激した。
店内に入る前にもう一声…
「ヘルス??」
店について何の知識も無いことをアピールする。
「サロンですね~。さぁどうぞどうぞ」
と笑顔で手招く男をみて、ひとまず潜入が成功したことを確信した。
つづく。
To Be Continued.
永久保存版!ボッタクリサロン潜入調査 その巧妙な手口を身をもって体験してきました!!その参・擬態